INTERVIEW 2019.10.18

日本のサステイナブルツーリズムを実現するためのキーポイントとは

2019年7月26日にアジア・パシフィック・イニシアティブとソーシャル・イノベーション・ジャパンが共催した、シンポジウム「Sustainable Tourism in Japan: Beyond Numbers」。訪日客の旅行環境を整備しつつ、観光地本来の姿や住民生活を持続的に保つにはどうしたらいいか。青木優氏(MATCHA CEO)、加藤史子氏(WAmazing社長兼CEO)、デニス・チア氏(BOUNDLESS CEO)、山川智嗣氏(コラレアルチザンジャパン社長)に、ジョナサン・ソーブルが聞いた。

ソーブル

ツーリズムにおけるサステイナビリティとは何でしょうか。訪日客の増加を目指しながらも、オーバーツーリズムによる地域住民や自然環境への悪影響は回避しなければなりません。どのようにバランスを取ればいいでしょうか?

ジョナサン・ソーブル氏(撮影:殿村誠士)
加藤

サスティナブルツーリズムのキーワードは、レベリング(平準化)だと思います。人気エリアだけでなく、人が誰も来ないような知られざる場所にも人を呼び込み、訪日客の意識を変えていかなければなりません。また、シーズンも大事です。春、夏、秋の繁忙期だけでなく、閑散期の冬も訪日客を増やす必要があります。中国の北京で2022年に冬季オリンピックがあるため、スノーアクティビティ人口が増加すると言われています。雪は良いテーマですね。

加藤史子氏(撮影:殿村誠士)
青木

1週間など一定期間滞在し、その土地の文化に触れ、学ぶことがサスティナブルツーリズムだと思います。ただの消費に終わる観光ではなく、地域の文化を学ぶことが大切であり、地域と旅行者が一緒に丁寧に積み重ねていくような観光にする必要がありますね。人数ではなく滞在日数に配慮すべきです。訪日客向けWebマガジンMATCHAでも、香川県三豊市にライターが滞在しインバウンドのプロモーションや戦略構築をサポートするプロジェクトを進めています。最近、「センスのいい参入障壁」という言葉で表現しているのですが、例えば京都にも通常は入れない観光スポットがたくさんあるように、ちょっとハードルのある観光のほうがいい。1回や2回の訪問では本当の良さに辿り着けないから何度でも行きたくなる、そんな観光を設計していくことが重要です。

山川

私が経営する宿泊施設「BED AND CRAFT」は富山県の井波町にあります。今のところ大勢の観光客が押し寄せるという問題はありませんが、集客にあたり地域にマッチする顧客層を定めていくことは必要だと思っています。井波の場合、どんな人なら木彫刻や職人さんに興味を持ってくれるのか体系的に区別していくことが大事ですね。私の宿では、価格や料金が顧客を選別する主な要素のひとつです。例えば、木彫り作品の価格は30~40万円程度と非常に高価ですので、バックパッカーがお客さんとして購入してくれる可能性はほぼ無いと判断できますよね。旅行会社も各観光地に合う顧客層をさらに特定していくことが必要ではないでしょうか。

チア

今、観光客とは異なる、交流人口という新しい言葉が生まれています。交流人口とは地域の人々と実際に交流する人々を意味します。BOUNDLESSでは「地方創生パートナーズ」という活動に取り組んでいます。この活動を通して地方の人々と働くことが多い私の経験からすれば、今後は観光客よりも交流人口の増加が求められると感じています。地域の希望に応じてツーリズムを構築すれば、地域に合う人々が来るようになると思いますよ。

ソーブル

各地域に合う顧客層を特定しながらも、経済力含め多種多様な人々が訪れやすい観光国になるにはどうすればいいでしょうか。

チア

料金も大事ですが、地域をブランディングすることにより、地域に合う人々を呼び込めると思います。信頼に足るブランドであれば高い安いに関わらず来てくれますよ。山川さんのホテルの特色は木彫り職人とのクラフト体験ですね。クラフトに興味があれば、それほど料金を気にせず多くの人々が参加すると思います。各地域の特色を打ち出し、いわゆるブランドアイデンティティを確立することが大切ではないでしょうか。

ソーブル

訪日客は日本について以前よりも学び、典型的な京都や東京の観光ではなく、別の何かを求め始めていると思いますか?

青木

それは国によって違うと思いますが、記事の反応からある変化を感じています。ある場所にしかないニッチでオリジナリティのあるもので、なおかつその国にフィットしているものを求める人が多くなりました。MATCHAの読者は台湾人が多いのですが、8割は訪日リピーターです。その台湾人から大きな反応があったのは、板橋区の中村印刷所が開発した180度「水平ノート」に関する記事です。この記事は、公開して1ヶ月で約3万人のアクセスがありました。台湾には文房具やニッチなものに興味を持つ人が多く、クラフトマンシップや手作り感を求める人も多いので記事とマッチしたのです。旅行するというよりは、自分の好きなものや趣味趣向を追求するという行動に変わってきていますね。

ソーブル

みなさんは地方に訪日客を呼び込む努力をされていますが、地方の人々から反発や抵抗を受けるなど、乗り越えなければならない課題や問題はあったでしょうか。

山川

どの地域も困難な問題を抱えていると思いますよ。井波の住民や職人も最初は訪日客を呼び込むことに乗り気ではなかった。外国人は木彫りに興味を持たないという先入観があったのです。しかし映画制作者やデザイナーなどが訪れ、積極的に職人さんとコミュニケーションを取る姿を見て、地域の考え方も変わってきました。無料英会話レッスンも兼ねてお得だねと、今ではすごくポジティブに捉えていますよ!

山川智嗣氏(撮影:殿村誠士)
チア

日本では信頼関係を築くことが大きな課題だと思います。地域に長く住む住民同士のほうが互いに信用を得やすいので、何度も地域を訪れて住民と過ごすことが必要です。ビジネスの話を切り出すのは信頼関係が生まれてから。信頼関係がキーワードですね。

青木

日本の多くの地域では、日本人の発信したい情報が旅行者の求める情報だと捉える傾向があります。MATCHAもこうした日本人目線の情報を世界へ発信した結果、最初の2年間はほとんどアクセスがなくビジネスとして成立しなかった。ところが台湾人の社員が入ったことで大きく状況が改善され、発信先の国のパートナーを持つべきだと分かったのです。これに気付くまでの道のりがとても困難でしたね。

ジョナサン・ソーブル氏(左)青木優氏(右)(撮影:殿村誠士)
ソーブル

日本のツーリズム市場では、訪日客ではなく日本在住の外国人が主なターゲットなのでしょうか?

山川

私にとって外国人のお客さんが訪日なのか日本在住なのかは特に重要ではありません。クラフトワークショップの料金を6,000円に設定したところ、日本人は高すぎると難色を示しましたが、外国人は6,000円で職人さんを3時間も独占できる貴重な体験だと捉えてくれました。現在の料金は10,000円で、参加者は100パーセント外国人です。ただ、クラフトがいわゆるトレンドになってきているため、日本人のお客さんも興味を持つようになりました。訪日客にこだわらず、どんな需要があるのか見極めることが大切なのではないかと思います。

ソーブル

日本人旅行者の動向にも変化が見られるとのこと、日本におけるツーリズムの基本的な考え方自体が変化を迫られているのでしょうか。

ジョナサン・ソーブル氏(撮影:殿村誠士)
青木

多くの日本の旅館は2泊分の食事メニューしか用意していません。日本人の旅行スタイルはホッピング的で2泊程度の短期滞在が普通ですから。一カ所にゆっくりと滞在する旅行スタイルを好む訪日客もいるのですが、そうしたニーズに対応できていない。日本では旅行が単なる消費になっていて、ひとつの人生のあり方や楽しみの提案になっていないのです。そこが日本のツーリズムで変化が求められているところではないかと思います。

ソーブル

日本の観光インフラは日本人にとって使いやすいが、外国人にとってはそうではない。結果として外国人は日本の観光インフラのメリットを享受できていないという意見も聞かれます。

加藤

WAmazingは訪日客に特化したITプラットフォームサービスを提供することで、旅行者の不便を解決しようとしています。スマホのアプリで簡単に宿泊施設など旅行に必要なものがすべて購入できます。無料のSIMカードも提供していますよ。また、外国人が楽しめるようなスノーアクティビティサービスも開発しており、オンラインで2000種類以上の旅行商品が購入できます。

加藤史子氏(撮影:殿村誠士)
ソーブル

地域で現在行っているビジネスは、地域の変化や新たなビジネスの創出につながっていますか?

山川

井波に数人の外国人が引っ越してきました。会社を設立した人や新たなビジネスのために土地を購入した知り合いもいます。また、今では町で外国人と挨拶しあう光景がそこかしこで見られますよ。

ソーブル

サスティナブルツーリズムの展望について聞かせてください。

青木

最近、スキーリゾートで有名なニセコに行きました。夏も美しい場所で、町長は自信をもってニセコの紹介をしていました。町長には、主観的な視点、旅行者の視点、客観的な視点があると思います。旅行者の視点でニセコは良い場所だと認識し、客観的に世界の中でニセコは少し特殊な場所だと理解し、だからこそ主観的な自己認識としてニセコは素晴らしい場所だと分かっておられます。こうした3つの視点を各地域が持てば、より自信を持って世界にプレゼンテーションできるのではないでしょうか。

会場の様子(撮影:殿村誠士)

イベントを終えて

東京オリンピックを目前に、日本は訪日客の需要を取り込もうと沸き立っているが、4人の起業家は冷静にツーリズムの現状と今後を見つめている。都市部だけではなく日本の津々浦々まで均等に訪日客を呼び込むには、地方との丁寧かつ長期的な連携が欠かせない。外国人目線で見ると、地方に潜在する魅力的なコトやモノが浮かび上がってくることもある。そうした魅力を観光資源として活用すれば地方の再生や活性化がもたらされ、住民と訪日客が相互に潤うサスティナブルツーリズムの実現につながるのではないだろうか。